母の命は1週間が限界だったはずが、今も不思議に健康状態を保っている。 その辺を担当医に訊ねると、彼はしきりに首を傾げながら二つの可能性を挙げた。 (なんせ母は頑として病院へ行かないので、担当医の言葉は憶測でしかない) ひとつは、胆嚢の爆発した部分を、一番大きな胆石が塞ぎ、その間胆嚢に薄い膜が張り、破れが塞がったかもしれないとの事。 これはどんな生物に備わっている自然蘇生能力による作用らしい。 二つは、胆汁を体外に出すプラスチック製の管と袋を退院する際に取り外し、その後はただの垂れ流し状態と思われた胆汁が何かの弾みで奇跡的に十二指腸に流れるようになり、胆嚢としての働きを維持している可能性があるとの事。 このふたつは、万にひとつの奇跡らしいが、その奇跡が二つ同時に重なったと言う事は、これも母の云うところの阿弥陀さま御加護なのだろうか?!? それはそれで良かったのだけど、かと言って散らばった胆石が消えたわけでもなく、大きな胆石は未だ胆嚢内にあって、綱渡りな状況を生きる母の命にはなんら変わり無く、それならばなお更の事、早く手術をして本来の健康を取り戻して欲しいと願わずにはいられないのだけど、日々の説得も虚しく、それどころか「毎日同じ事ばかり云われて苦痛だからもう家に来なくていい、さっさとカナダに戻りなさいっ!」と激しく叱責されて万事休す。 老いの狂気と頑固さにただただ茫然とするばかり! 旭川最後の帰り際に、涙ボロボロ 子供のようにオイオイ泣いて病院へ戻るように哀願したものの何の結実も無く、忸怩たる思いでカナダへ戻 って来た。 どってり鉛のように重たい徒労感だけを抱え、とぼとぼと実家をあとにして、通りの角を曲がる手前でふと振り返ると、実家の玄関先に降り積り、高く盛り上がった雪だまりの向こうで、じっ~とこちらを見ながら手を振る母がいて、その見事なまでの白髪が雪と混ざり合い、いくら目を凝らしても薄ぼんやりとしか見えない母、もしかしてこの光景が母の生存を見る最後かもと思うと、涙が溢れて仕方なかった。
by pbkanata
| 2010-04-03 12:26
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